概念的に考えるということ
サイト改善の仕事をしていると、ペルソナを作ったりジャーニーマップを作ったり、いわゆる「モデル化」をすることがよくあります。これはユーザーインタビューや顧客アンケート、ログ解析など事実から共通項を取り出し「それらしいもの」を一つに仕上げたアウトプットになります。
しかし、これをクライアントさんに見せると「(別の)こういうユーザーの場合どうなんだ」とか「うちのサイトはこういう使われ方もある」と言われてしまうケースがたくさんあります。
このようなことを言われてしまう背景として、我々の方での説明不足が多いことが挙げられると思います。特に「数あるパターンを概念的に考えてモデル化し、問題をシンプルに捉えるためにこういうことをするんです」ということに納得いただけてない。
これをご納得いただくためにどのように説明すればいいかな?と思っていたところ、ある本からインスパイアを得ました。
知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/09/27
- メディア: Kindle版
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本書は概ね「常識にとらわれずに多角的に物事を捉えて考えよう」ということが書かれているのですが、概念的に考えるということについて以下のように書いていました(うるおぼえのまとめです。抜粋ではありません)
目の前の具体的な事例にとらわれ過ぎると思考停止に陥る。当面の問題は親しみを感じてしまうだけにそれを当たり前に発生していることと見なしてしまい、そのケースを越え出る問題の広がりに目が向かなくなってしまう
UXに関連するアウトプットはおおむね問題を可視化することだと思っています。Design Thinking Method的にいうと、共感して(Empathize)課題を定義する(Define)するためのものです。決して網羅するためのものではありません(そういう使い方はそれで有効なこともあるかもですが)
運営側の持っている中から見た問題点だけに固執せず、利用者側視点での問題を抜き出し、どこが一番ネックになっているのかを知るためのものです。
このような考え方には3つのメリットがあると本書にかかれています。
- 物事どうしの共通性を高め、個々の出来事をシンプルに捉える
- 一つの概念から新しい考えを産み出す。「ジェンダー」を例にとると、以前は性差は生物学的な違いにフォーカスがあたっていましたが、ジェンダーの発見により社会的役割(女性が子育てをするべき)という常識から抜け出し、社会的に作られた性差という新しい発見がなされた
- 概念同士に新しい共通点を見つけて定義しなおす。「セクシャル・ハラスメント」を例にとると、以前は性犯罪にいたるほどにならないと問題にならなかったが、セクハラの概念ができることによって、女性が不快に思ったかどうかに目が向けられるようになった。またさらに発展して男女間で起こる嫌がらせ、というように定義された
UXがサービスおよびサービス運営者にもたらすメリットとよく似ています。課題をシンプルにとらえリソースを投下すべきフォーカスポイントを見つけ、内在する課題を発展させたり取捨選択する過程で新しいアイデアが発生する。
サービスを運営していると機能的なアイデア(この機能があればユーザーは使うはずだ)が真っ先に出てきてしまいますが、その前になぜそれが必要なのか、抽象度をあげて考えると視野が広がるのだと思います。